はじめに

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「え?間違えてもいいの?」

これは私が中学受験の指導を始めた頃に担当した、ある生徒のセリフです。

その子は、授業中、鉛筆が全く動かない生徒でした。

問題を解かせると、鉛筆を持って問題集に向かっているのですが、一向に何も描かないのです。わからなければ絵や図を描きながら考えるというのは算数の基本ですが、何も描きません。

「解ること、何でもいいから描いてごらん。」

と促しても、やはり何も描きません。そこで

「間違えてもいいから、思った通り描いてごらん。」

と言うと、その子はびっくりした顔で聞いてきました。

「え?間違えてもいいの?」

こっちもびっくりして言いました。

「もちろん!何も描かなかったら解けないから、みんな何か描くんだよ。間違えたら描き直したらいいだけだから、いっぱい描いてごらん。」

「そうなんだ。知らなかった。間違えたらいけないと思ってた。」

そう言って、恐る恐る図を描きだしました。すると、頭で考えてた時には気が付かなかったことに気が付いて、自分で問題を解いてしまいました。

その時私は、「そんなところで引っかかってたんだ。」と、目からウロコが落ちる思いでした。しかも、そのことに誰かが気が付けば、ちょっとしたアドバイスでガラッと変えられるんだ、と嬉しくなりました。

それ以来、一生けん命解き方を教えるよりも、その子が引っかかってる原因を探って取り除いてあげることに力を入れてきました。10の問題を教えても、解ける問題が10個しか増えない子がいます。そういう子が引っかかってる原因を1つ取り除くと、それだけで解けるようになる問題は何千、何万になるというのが私の実感です。

特に中学受験では、大きな引っかかりがたくさんあるのが算数です。

それは、小学校で扱う算数と比べて問題の種類も多く、難易度もけた違いに難しいからです。その難易度は、普通の大人が分からないレベル。最難関の中学入試問題となると、東大・京大の理系の学生でも、いきなり解けと言われたら解けない問題がたくさんあります。多くの受験生が算数で苦労し、受験そのものを断念してしまうことも珍しくありません。

しかし、受験生の皆が苦労するかというと決してそうではありません。「学校の勉強はつまらないけど、受験算数は面白い!」という小学生も少なくありません。受験算数がきっかけで勉強好きになる生徒も大勢います。

いったい何が違うのでしょうか?

単純に能力の差、頭の良し悪し、と考えることもできるでしょう。

しかし、私は20年以上中学受験算数の指導をしていて、あることに気が付きました。算数の得意な子と不得意な子には、単に能力の差ではない、算数そのもののとらえ方、考え方、勉強の仕方に大きな違いがあったのです。その中には、勉強中に横から見ててもわからない、頭の中で行われていることもたくさんあります。勘違いもありますし、人間心理にかかわることもあります。

このことが分かると、周りの大人のちょっとした関わり方の変化によって、大きく改善されることもあります。だから、今回多くの方と、よくある引っかかりを共有し、多くの子どもたちに少しでも算数を好きになってもらいたいという思いから、このサイトを作りました。

特に今、受験算数と格闘しているお子さんがいらっしゃる方、またこれから受験算数に立ち向かっていくお子さんの保護者の方にお届けしたいと思っています。何か一つでもお役に立ったなら幸いです。

ゴールフリー江坂教室

教室長 倉知 憲三

極意その①

いっぱい間違えること!

 こう書くと驚く方もいらっしゃるかと思いますが、算数、数学というのは、実は間違えながら進む教科なんです。

もちろん、考える前にスラスラと手が動くぐらいに習熟しないといけないこともありますが、ちょっと応用問題になると違ってきます。

算数の得意な子が問題を解くのを横で見ていると、スラスラと式を描いているように見えます。しかし、頭の中では実はいろんなことを考えています。例えば、使えそうな公式を思い出しては当てはめてみる。でも当てはまらない。だったらこっちの公式は?これもだめ。この公式は?あっ!これだ!それから式を書くわけです。でも、これがとても短い時間で判断されているので、横から見ていると、問題文を読み終わった直後に式を書いてるようにしか見えないのです。 このケース、考えてみてください。正解する前に、使えない公式を当てはめるという「間違い」を2回犯しています。でも、それでいいのです。その2回の間違いがあるから、3回目で正解できたのです。

では算数の苦手な子によくあるパターンを見てみましょう。

よくあるのが、「間違えたらいけない」という脅迫観念が強いお子さん。ちょっと難しい問題になると、途端に手が止まります。間違えたらいけないと思うので、自信がないことは、試してみることもできなくなります。こうなると、誰かに教わった通りの解き方しかできなくなります。当然、応用力は身につかなくなります。

中学入試問題では、問題を見たら一瞬で式を立てて短時間で解けないといけない問題も多いですが、一瞬ではわからないように作って、あれこれ試行錯誤させている問題も少なからずあるのです。特に難関・最難関と言われる中学校の先生は、教わったことができる以上に、初めて見る問題を試行錯誤しながら自分で解法を発見する、そういう意欲と能力を持っている子に入学してほしいと思って、ふるいにかけています。

算数を得意するために、ぜひたくさん間違えさせてください。間違えたことをとがめるのでなく、やってみたことを誉めてあげてください。そして間違えることを恐れない子にしてあげてください。

極意その②

計算できることよりも、

計算の意味を理解すること

計算はできるのに、文章題はできないという子どもがたくさんいます。

 その原因の一つが、計算の意味を理解していないということです。

それが良く起こるのが、かけ算です。

かけ算と言えば、大抵の大人は「九九を覚えるのに苦労した」ということばかり覚えているので、子どもを思う保護者の方は、学校でかけ算を習う前に、つい九九の暗記をやらせてしまいます。九九を覚えた子どもたちは、九九を覚えたことで、かけ算はもう解ってるつもりになりがちです。それで学校の授業をちゃんと聞かない子が出てきます。

教科書では、かけ算の意味を理解して身に付けてもらうために、初めに「かけ算の答えは、足し算で求めることができる」として、「2×4」を「2+2+2+2=8」と求めさせます。「2の塊が4個ある」というのが感覚的にもわかりやすいですね。ここがかなり重要ですかけ算とは、「同じ数の塊が何個かある時に、合計を求めること」ですよね。だから本来の計算方法は、足し算です。ただ、大きな数のかけ算をまじめに足し算で求めると大変時間がかかって非効率なので、答えを丸暗記してしまう方法が九九に過ぎません。だから九九は、かけ算の意味を理解することとはあまり関係がないのです。

しかし、先に九九を覚えてしまっている子どもたちは、「先生!そんなめんどくさいことしなくても、九九で求められるやん!」と言って、話を聞かないということが起こります。そうなると、どういう時にかけ算をするのか、が解っていないまま、単元名が「かけ算」の間、計算はずっとは九九をすればいいと思って過ごしてしまいます。かけ算の意味が解っていないのですが、単元名に「かけ算」と書いていますから、文章題でも全部かけ算すれば正解するので、誰も気が付かないということも起こります。

そういう子が、より複雑な文章題、足し算、引き算、かけ算、割り算を組み合わせないと解けないような文章題が出てくると、何をしていいのか解らなくなります。

 文章題を見て「先生、これ何算の問題ですか?」と聞かれることがあります。「何算か教えてもらえたら、私解けます!」とニコニコしながら聞いてくる子です。

計算には意味がある。そのことすら知らない子がたくさんいます。計算には意味があることを教えないといけないことに気が付かない大人がたくさんいます。学校の先生にもいます。不安になったら、小学校の教科書を読んでみてください。初めて習う計算の意味をどのように教えてるか、目からウロコが落ちることもきっとあります。

その時にしか出てこないような、変わった問題がたくさんあります。それは計算の意味を深く理解してもらうための問題です。

例えば

4×5=4×[    ]-4

この[  ]に当てはまる数を求める問題です。

これは決して方程式の先取り学習ではありません。

かけ算の意味(同じ数を複数足すこと)が分かっていれば解ける問題なのです。この式から絵を描いてみれば解けます。

例えばこんな絵です。

この絵を見て何のことか解らない子は、かけ算の意味が解っていない可能性があるので、先々文章題で苦労する危険も高いです。(「=」の意味を解ってない場合もあります。)

「じゃあ、どうすればいいの?」って怒られそうですね。

もし計算の意味が理解できていないようなら、計算式を絵に変換して見せてあげる。

4×3 というのは、     〇〇〇〇 + 〇〇〇〇 + 〇〇〇〇

その後、お子さんにも式から絵を描かせてあげてください。

「それがかけ算の意味なんだよ。」と言ってピンとこないようなら、「式にはお話があるんだよ」という言い方もあります。 計算すら苦手だった1年生が、この言葉で算数が解るようになったケースもあります。

そして、式から絵を描きながら、子どもにも描かせる。解るようになったら、今度は絵から式を描かせる。それもできるようになったらOKです。

極意その③

文章題は、絵や図を描いて考えること

考えるときに、絵や図を描かない子がいます。それでも正解にたどり着く算数が得意な子もいますが、それはたいてい頭の中に絵や図を思い浮かべて考えています。だから解けるのです。絵や図を描こうと思えば描けるのです。でも、描く前にわかってしまうので、わざわざ描いたりしないだけなのです。

算数の苦手な子は、文章題でも、絵や図が描けない子が多いです。文から式がひらめくのだと思っていたりします。だからいつまでたっても式がひらめかない。もっと悪い場合、数字から式を連想します。例えば、49と7が出てきたら、割り切れるので割る。そういう考え方が習慣になったら、どんどん文章題ができない子になっていきます。

文章題を考えるとは、次のようなステップを踏みます。

①文章を読んで、理解する

②その場面や何が起こっているのかをイメージする

(絵や図を思い浮かべる。または紙などに描く。)

③そこで答えを求めるための計算(式)を見つける

④答えを出す

この②ができるかどうかが、文章題を解けるかどうかに大きくかかわります。

だから、文章題が苦手な子は、絵や図を描く練習をさせてあげるのが、近道です。絵や図が描けないのは、文章の意味が解っていないからです。言い換えると、文章題の意味が解るとは、絵や図が描けるということです。だから、いきなり式を書かせるよりも、まず絵や図を描く練習をとことんやらせてあげましょう。

絵や図が描けるようになったら、「だったらここは引き算に決まってるよね。」と、自分でどういう計算をすればいいのか解るようになります。

「ああ!考えるってこいうことなんだ!」って思ってもらうことが目標です。

※ただし、計算の意味が解っていることが前提です。

掛け算ってどういうときに行う計算か?が解らないと、絵や図が描けてもどういう計算をしていいか解るようになりません。

極意その④

たまには、初めての問題も

ノーヒントで解いてみる!

「この問題は習ってないから、解けるわけないやん。」

お子さんから、こんなセリフが出たら要注意です。

なぜなら、「解き方は問題ごとに決まってるし、教わるもの」という意識の表れと思われるからです。

この意識が強い子は、自分で考えようとせず、解き方を丸暗記しようとする傾向が強いです。そうなると、理解が浅くなり、応用が利かなくなるだけでなく、すぐに忘れる傾向が強いからです。

特に受験算数特有の文章題では、特別な前提知識が必要でない問題が大半で、教わらなくても考えれば解ける問題が多いです。(難しいですけど・・・)

もちろん、ノーヒントで解けなくて問題ありません。解き方を後で教わればいいのです。しかし、もしノーヒントで考えて解けたら、算数の理解力は一気に上がります。自分の思考力に自信が付きますから、何回かノーヒントで正解すると、誰かに教わる時でも、並行して自分の頭で考えながら説明を聞けるようになるので、理解力が一気に上がります。

そしてノーヒントで解けた時、「できた」で終わらずに、模範解答を読んでおくとさらに理解が深まります。自分が解いた解き方より、模範解答の方がより早く楽に正確に解ける解き方であることが多いからです。

極意その⑤

新しいことを学ぶと、

楽できることを知る。

一度覚えたやり方を変えられない子がいます。

計算の工夫の仕方を習っても、普段の計算の時にその工夫を使わないのです。

めんどくさいから解き方を変えない、という子がいます。同じ問題でも複数の解き方があって、自分で選んでいいということを感覚的に理解できていない子です。

熟練の先生は、計算の工夫を新しい単元として教えるのではなく、今までやってた方法では、とても面倒くさくてやってられないような問題をあえて解かせた後に、「こうやったらこんなに楽に解けるんだよ。」って演出してくれます。

例えるなら、わざと何駅か歩かせて、大変さを実感したところで、「じゃあ帰りは電車に乗ろうか」と言って切符の買い方を教えたら、みんな喜んで切符の買い方、電車の乗り方を覚えます。

下手な先生は、そういう演出をしないで、いきなり切符の買い方や電車の乗り方を教えるので、そんなの覚えるの「めんどくさい」とか「僕は電車なんか乗らなくていいです」などと言い出す子が出るのです。その後で、「3駅先まで行こう」と誘っても、「そんな遠いの無理です」とあきらめてしまうわけです。

 そういう演出の助けを借りて、同じ問題でも、いろいろな解き方があり、面倒な解き方と楽な解き方があることを知ると、新しい単元でも、もっと楽な解き方がないのかと考えだすようになります。

 新しいことを学ぶことが楽しみになり、考えることが楽しくなり、算数が楽しくなる。好循環の始まりです。

極意その⑥

解く問題の数より

考えた量を大切にする

 難しい問題が解らない生徒に「たくさん解けば、そのうち解るようになるよ」というアドバイスは、時に危険です。

確かに、解らない問題を何度も解いてるうちに、「あっ!そういうことか!」と理解できた経験を持つ人も多いでしょう。しかし、たくさん解いても一向に解るようにならない子もいます。何が違うのでしょうか?

それは、たくさん解くにしても、理解しようとして考えながら解いているか?考えずにただ数をこなしているか?の違いです。その違いを探るには、間違い直しの仕方でわかります。考えている人は、答えの解説や式を見ることにある程度時間をかけます。考えてない人は、答えを丸写ししてすぐに次へ行きます。解いた(こなした)数しか意識していません。

アドバイスの「たくさん解く」とは、たくさん「考える」ことであり、ノートに答えを移すような「作業」をたくさんしても、あまりできるようにはなりません。問題の数を意識させるより、考える量を意識させることが大切です。だから、解答や解説を見ながら何時間も考えるのであれば、問題の数は少なくても、ある日突然「視界が開ける」ようなことが起こるのです。

問題の数をこなすなら、同時に考えてる量も重要であることを意識させましょう。

極意その⑦

計算はスピードより正確性を重視する。

集団指導では、生徒のモチベーションを上げる簡単な方法があります。それは生徒同士を競わせる方法です。学校でも塾でも同じです。特に簡単にできるのが、時間を計って、いかに速く解くかを競わせる方法です。とても簡単で有効なので多用されるのですが、この手法には危険性もあります。それは一部の生徒からすると、いかに速く「できた!」って叫ぶかに意識が強くなりすぎるため、正確性を犠牲にしがちであることです。間違いだらけでも「できた!」って一番に叫べれば、カッコイイですから。少々間違いがあっても、黙っていればわかりません(笑)

それでも、何回も練習してれば、熟練してだんだん正確になっていくだろう、と思うところに危険性が潜んでいます。実はこのケース、なかなか計算ミスが減っていかないことが多いです。

理由があります。

実は、繰り返し起こる計算ミスは、単なる不注意ではありません。それは悪い癖がついてる可能性の方が高いのです。スピードを重視するあまり、字が汚くなって自分で自分の書いた字を読み間違える、というのは典型的な癖です。「0」と「6」が区別つかない字しか書けなくなっていたりします。そうなっているのに、スピード重視で何回も練習したら、悪い癖がより強化されてしまいます。練習すればするほど正確に計算出来なくなるのです。

これを改善するには、「注意して解きなさい」とか「正確に解きなさい」とかアドバイスしても効果が低いです。それよりも、「ゆっくり計算しなさい」とアドバイスする方が効果的です。計算練習したら、間違えた問題は、どこで間違えたのかしっかりと間違い探しをして、自分にどんな悪い癖がついてるのかを覚えた上で、ゆっくりと癖を直すつもりで計算して、一発で全問正解するように練習するのです。全問正解するまでは、スピードを上げないこと。ミスがなくなってきたら、後からスピードを上げることは簡単です。しかし、スピードを落とさずに、計算ミスを減らすのは至難の業です。

おわりに

最後までお読みいただきありがとうございます。

いかがでしたでしょうか?

目からウロコが落ちましたでしょうか?

こんなこと全部わかっていた、という方がいらっしゃったら申し訳ありません。

さて、この冊子を最後までお読みいただいた皆さんに私が期待することが一つあります。

それは、ここに書かれた7つの極意を活用してもらうこともそうですが、それ以上に活用してほしい考え方があります。

それは、お子さんが引っかかっている原因を探るという姿勢です。

分かるまで教えることよりも、全部の問題を解説するよりも、お子さんがこの問題を理解しないのは何が原因か?頭の片隅にその考えを持ってお子さんと勉強してもらえたなら、少なからず算数が好きになってもらえる可能性が上がるだろうからです。

お腹をすかせた人を助けるのに、魚を食べさせてあげる方法と、魚の釣り方を教えてあげる方法がある。そんな話を聞いたことはありませんか?

子どもたちと接するうえで、特に勉強をサポートするときに、ぜひ魚の釣り方を教えてあげたいですね。

一人でも多くのお子さんが算数好きになることを願っています。

ゴールフリー江坂教室

教室長 倉知 憲三

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